自邸というのは、建築家にとって特別な住宅。
例えば、自分が掲げた宣言(マニュフェスト)を実現するために、社会にその真価を問う、なんて場合に使われる。
ま、そこまで言わずとも、自分の理想空間を実現することで、こんな住宅はいかがですか?と、建築家としての名刺代わりになる。
(平たく言うと、顧客への広告)
そんななかで、僕は「実験」ができる、ことに注目している。
コルビュジエの自邸兼アトリエ(ポルト・モリトー集合住宅)は、今回初めて見せていただいたが、実験的な要素が多くあってとても面白く、楽しみながら見て回ることができた。
なぜ実験が多くなされるかというと、失敗しても被害を被るのは自分。クライアントの住宅ではそうはいかない。リスクはかけられない。建築家は新しい試みが大好きだから、自邸ではここぞとばかりに実験をしてしまう、というわけ。
例えば、屋根や壁に新しい材料を使いたいが、漏水は?耐久性は?色合いは?断熱性は?と言った具合だ。
クラアントの住宅ではちょっとなあ、と思うことも、自分の家ならやってみるか、みたいにハードルが一気に下がってしまう。
ただ、ポルト・モリトー集合住宅では、いわゆる「実験」で素材や空間の良否を確かめる?というよりも、本当に自分が納得できるかアイデアか確かめる、という感じ、ちょっと微妙な言い回しだけど、自分との対話を楽しんでいる感じがした。
とりわけ家具、建具ではその要素が強い。例えば寝室のドア。コルビュジエの好んだ中軸回転扉ではないが、幅ほぼ1間(両手を広げたくらい)の開き戸に、扉の裏(寝室側)に大きな収納家具が取り付いている。寝室に入る度に、建具といっしょに収納家具も着いてくる。家具を置く場所に苦慮したことは伝わるが、それにしても・・・・
このアイディアについてはちょっと疑問だったのだろう、以降このシステムは登場しない。
あと、異彩を放っているのはベッドの高さ。通常は40cm前後、高くても60cm程度だが、ここでは約1.1m程度。手術台かこれ!っていうか、落ちたら怪我するよ。ツッコミどころ万歳。
一般的に、ベッドの高さは、上り下りにちょうど良い高さに設定するが、こんな高さにしたのは、寝ながらパリの街並みが見下ろせるから、とのこと。ベッドから見える外のベランダ腰壁が1.1m程度だから、ベッドから半身起こせばパリの街並みがよく見える、という算段。
キッチンもユニークだった。シンク(洗い場)を窓側に設置しているが、床からガラスブロック+突き出し窓で、壁の下から上まで光が入る。手元に限らず足元も明るくしようと言う意図で、シンクの下は幕板で隠すことなく剥き出し。給排水の配管はもちろん露出している。設備配管はどこまでデザイン要素となり得るか?を試しているような感じ。
照明器具も、天井にはつけず、ブラケットで壁から出しているが、同じデザインのものはなく、全て違う形状。
部屋のコーナーおさまり(出角)も、角張ったところあり、曲面あり。出隅入角の形状は空間の雰囲気をどのように変えるか?を試しているような気配がある。
とまあ、普通ではちょっとやらないことが次から次へと登場し、謎解きが好きな僕には楽しい限り。
勿論、この住宅に限ったアイデアも多くて、「ちょっとイマイチだったかな?」とイタズラっぽく笑うコルビュジエの表情が眼に浮かぶ。
結論
ここまで書いてきて、当初、彼の自邸での「実験」は、一般的な「実験」とはちょっと違うのでは?と感じたことが、すこし鮮明になった。
通常言われる「実験」は結果とその成否に重きを置いているが、コルビュジエのは生活に組み込んだ実験そのものを”楽しんで”いる。
コルビュジエは(少なくともここでの生活では)、成功しようが失敗しようがどちらでもよかったのではないだろうか。
コルビュジエがよく使う言葉。
生きる喜び(la joie de vivre)
ポルト・モリトー集合住宅のファサード。腰壁までガラスブロックで、その上が引き違い窓。このアパートの7階と8階が、コルビュジエのアトリエと住居。
コルビュジエのアトリエ。正面の石積みの壁は、隣の建物との界壁。構造壁の組積をあえて見せている。アトリエは最も天井が高い部屋。
この扉(黒色)のうしろに、動く家具が取り付いている。天井はボールトで包まれている感じ。
寝室側から扉を見る。大きめの家具が取り付けてある。床は戸車で動く。
左に、座高の高いベッド。照明器具はなぜかキャンティレバーで、壁から跳ね出し。ベッドまわりもボールト天井。包まれた感じ。
座高の高いベッド。1.1mほど。上部に写るのは照明器具。
ベッドと、手元灯。手元灯は蛇腹で自在に動く。壁の色使いは鮮やか。
キッチン。シンクは窓際にある。窓は床から天井まで。シンク手元も、タイルの床も明るい。
シンク下。幕板はなく給排水管は、露出している。
洗面台。こちらも、床から天井まで明かり取り窓。設備配管は露出だが、配列はデザインされている?
シャワールーム。水回りは、曲面のディテールが多い。
浴槽と明かり取り窓。裸になる場所は、なんとなく曲面で仕上げている感じ。窓枠も曲線。
屋上に登る回り階段。外回りには手すりをつけず、中心に1本あるだけ。黒を基調とした色使いに特徴がある。
定番の屋上庭園。都市の空を体感できて気持ちが良い。