寺田寅彦に「柿の種」という随筆集がある。
自分で描いた挿絵を添えた随筆集である。
その中に、こんなエッセイがあった。
要旨はこんな具合である。
『道ばたに本を並べて、その本の宣伝をしている人が居る。誰に向かう訳でもなく、ぼそぼそと、休み無く吹聴している。
通行人は、訝しそうにちらりと見るが、特に関心を示す訳でもなく通り過ぎて行く。
この売り手は、本当に売ろうという気があるのだろうか?一体、どんな心境なのかと訝しく思った』
というものだった。
そんな経験を思い出し、共感しながら読み進めると、その直後の話が更に僕の心を捕らえた。
『誰かに読んでもらおうという宛も無く、挿絵を加えたこのエッセイを書き続けている自分に、その訝しい疑問の矛先が向かって苦笑した』
まるで、自分の事が書いてある様な気がして、読みながら”一緒に苦笑”した。
