あえて「画竜点睛を欠く」
日ノ出町のギャラリーは、大岡川に面した、小さなギャラリーです。
クライアントは、現代アートと陶磁器の収集家で、それを展示したいとのお話でした。
ところで、この依頼を受けるまで、僕はギャラリー・美術館を設計した事がありませんでした。客として美術館に行った事はありますが、作品鑑賞が中心で、設計する立場で空間を見た事はありません。日常からプロ意識を持って空間を観察しなければいけない、と、この時は反省しました。
さて、何はともあれそんな後悔をしていても仕方ないので、とにかくギャラリーを歩いてみることから始めました。美術館を設計した友人やライターの友人にお奨めのギャラリーを聞いたり、類似した展覧会を覗いて見たり、ギャラリーのオーナーにはいろいろ話を聞いたり・・・と。
十数箇所のギャラリーを見学する中で、設計する際に必用な事、大切な事を学んで行く訳ですが、その中でも特に記憶に残っているアドバイスがありました。
銀座にあるギャラリー小柳を訪ねた際に、オーナーの小柳敦子さんから教えて頂いたことです。
展示スペースの設計は杉本博司さんだったのですが、小柳さんによると通常建築家によるインテリアは、完成した際に「おお!」という驚きと共に充足感があるのですが、杉本さんのそれは、ちょっと物足りなかったそうです。
「?・?・?」
ところが、ギャラリーに「美術作品」が展示されると、作品が主役に座るとても豊かな空間になったそうです。つまり、杉本さんは、あえて「画竜点睛を欠く」状態で設計しておいて、展示されたとき「なるほど」と思える空間に仕上げた訳です。建築家は、展示していない状態で「完成」させてしまうのですが、この話は戒めの言葉としてとても腑に落ちました。
事実、ギャラリー小柳は、とても豊かな展示スペースでした。
「手数を抑えたように見せる事」
さて、日ノ出町のギャラリーに戻りますが、ここで僕が試みたのは、仕上材を減らす事でした。
壁・天井は同じ素材で色は白、床は元々のモルタルたたきとし、あえてデザインした(ように見える)のは、ラワンで統一された家具だけです。勿論、デザインに手を抜いている訳ではありません。「手数を抑えたように見せる事」、がこの設計では重要だった訳ですから。
床はモルタルたたき、壁と天井は白
ラワン材の家具
おかげで、現代アートの絵画が展示された時も、陶磁器が展示された時も、空間はひっそりと背後に退いて、作品と調和したインテリアになりました。 僕自身、この空間はとても気に入っています。
いかがでしたか?
不明点はお気軽にお問合わせください。
下記のスライドショーをクリックすると、拡大写真を見ることができます。
どうぞ、じっくりご検討ください。